大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島家庭裁判所郡山支部 昭和44年(家)1125号 審判

申立人 沼田ヒデ(仮名) 外二名

主文

申立人らの本件戸籍訂正許可の申立を却下する。

理由

第一申立人らの申立の趣旨

一  田村郡○○町役場備付の

(イ)  田村郡○○町字○○△△△番地沼田寅之助の原戸籍中

(一) 沼田寅之助の身分事項欄に「昭和二六年九月一三日ヒデとともに沼田正司を養子とする縁組届出」とあるのを「妻ヒデとともに田村郡○○町字○○△△△番地沼田正司同人妻ミヨを養子とする縁組届出昭和二六年九月一三日受附」と訂正し、「昭和二六年九月一三日妻ヒデとともに田村郡○○町字○○△△△番地沼田ミヨを養子とする縁組追完届出昭和四四年二月四日受附」の記載を消除し、

(二) 沼田ヒデの身分事項欄に「昭和二六年九月一三日夫寅之助とともに沼田正司を養子とする縁組届出」とあるのを「昭和二六年九月一三日夫寅之助とともに沼田正司同人妻ミヨを養子とする縁組届出」と訂正し、「沼田ミヨを養子とする縁組追完届出昭和四四年二月四日受附」とある記載を消除し、

(ロ)  田村郡○○町字○○△△△番地沼田ミヨの戸籍中

(一) 沼田ミヨの身分事項欄に「昭和二六年九月一三日夫正司とともに沼田寅之助同人妻ヒデの養子となる縁組追完の届出昭和四四年二月四日受附」とある記載を消除し、「夫正司とともに田村郡○○町字○○△△△番地沼田寅之助同人妻ヒデの養子となる縁組届出昭和二六年九月一三日受附田村郡○○町字○○△△△番地に新戸籍編成につき除籍」と記載し、

(二) 沼田正司の身分事項欄に「沼田寅之助同人妻ヒデの養子となる縁組届出昭和二六年九月一三日受附」とあるのを「昭和二六年九月一三日妻ミヨとともに養子となる縁組届出同日除籍」と訂正し、「妻ミヨとともに縁組する旨追完届出昭和四四年二月四日受附」とある記載を消除し、

二  田村郡○○町字○○△△△番地に沼田ミヨ同人夫正司夫婦につき養子縁組を原因とする新戸籍を編成し、同人らの従前の戸籍中二男誠の戸籍記載を右新戸籍に移記して誠の記載を消除することを許可するとの審判を求める。

第二申立の実情

一  申立人正司(以下「正司」と略記する)、同ミヨ夫婦は、申立人ヒデおよびその亡夫沼田寅之助との間に申立人ヒデ夫婦の養子となる合意をした。

二  そして、右養子縁組については、申立人らおよび前記寅之助において共同してその届出をすべきであつたにもかかわらず、誤つて申立人ミヨが届出人として加わらないまま昭和二六年九月一三日田村郡○○町長に対し縁組の届出をしたため、同町役場備付の寅之助の(原)戸籍中申立人ヒデおよび寅之助の身分事項欄には、申立人ヒデおよび寅之助が申立人正司のみと養子縁組をした旨の記載がなされ、また、申立人ミヨの戸籍中申立人正司の身分事項欄にも同趣旨の記載がなされるとともに、申立人ミヨの身分事項欄に申立人ヒデおよび寅之助の養子となる旨の記載がなされなかつた。

三  申立人らは、寅之助の死亡後右届出の過誤を知り、昭和四四年二月四日前同町長に対し、申立人ミヨが昭和二六年九月一三日申立人正司とともに申立人ヒデおよび寅之助の養子となる縁組追完の届出をし、これに基づき前記寅之助の戸籍中申立人ヒデおよび寅之助ならびに前記申立人ミヨの戸籍中申立人ミヨおよび申立人正司の各身分事項欄にそれぞれその旨の記載が加えられた。

四  しかしながら、右縁組追完の届出は寅之助の加わらない届出であつて無効であり、そうとすれば、申立人正司、同ミヨと申立人ヒデおよび寅之助との間になされていた養子縁組をそのまま有効とする途が他にないので、申立人ヒデおよび寅之助と申立人正司との間になされた旨の養子縁組の戸籍記載を申立人ヒデおよび寅之助と申立人正司、同ミヨとの間に養子縁組がなされた旨の記載に訂正し、かつこれに附随して申立の趣旨第一項(ロ)一後段、第二項記載のとおりの戸籍上の処理記載をするとともに、これらの訂正記載と矛盾する前記縁組追完の届出に基づく戸籍記載の消除をすることの許可を求めるため本申立におよんだ。

第三当裁判所の判断

一  一件記録中の沼田寅之助、沼田ミヨ、沼田ヒデの各戸籍謄本、家庭裁判所調査官作成の調査報告書によれば、つぎのとおりの事実が認められる。申立人正司と申立人ミヨとは、昭和二四年二月一八日婚姻の届出を了した夫婦であつたところ、昭和二六年九月一三日申立人正司が単独で申立人ヒデおよび沼田寅之助夫婦の養子となる旨の縁組の届出が田村郡○○町長に対してなされ、これが誤つて受理された。

右寅之助は、昭和四〇年五月二七日死亡し、その後の昭和四四年二月四日寅之助を除く申立人ら三名により、申立人ミヨにおいて申立人正司とともに昭和二六年九月一三日申立人ヒデおよび寅之助の養子となる縁組の追完届出が前同町長に対してなされ、これが受理された。

二  さて、養子縁組は、戸籍法の定めるところによりこれを届け出ることによつて、はじめて効力を生ずるものであるから、申立人ヒデおよび寅之助と申立人正司によつてなされた前認定の養子縁組の届出(以下この届出を「本件届出」という。)により、申立人ヒデおよび寅之助と申立人正司との間に有効な養親子関係が認定されるか否かは争いのあるところであるが、少なくとも申立人ヒデおよび寅之助と申立人ミヨとの間に養親子関係が設定されることのあり得ないことは疑の余地がなく、このことは、本件届出の際申立人ヒデおよび寅之助と申立人ミヨとの間に養子縁組をする意思があつたか否かで結論が左右されるものではない。

三  もつとも、元来夫婦双方で養子になる縁組をしなければならないのに、本件届出の場合のようにその一方のみで養子になる縁組の届出をし、これが誤つて受理された場合の救済策として、戸籍実務の取扱上追完の届出を認めているようであるが、かりにこのような追完の届出が容認できるとしても、追完の届出に基づき養親子関係が設定されるのは、追完の届出受理のときと解すべきである。

ところで、これを本件についてみると、申立人らにおいてなした養子縁組追完の届出においては、寅之助が届出の一員に加わつていないという手続上のこともさることながら、右追完の届出受理当時寅之助はすでに死亡しているのであるから、この追完届出により申立人ヒデと申立人ミヨとの間に養親子関係が設定されるとするのは格別、寅之助と申立人ミヨとの間に養親子関係が設定されることはあり得ないことといわなければならない。

四  以上の次第で、寅之助と申立人ミヨとの間に養親子関係は設定されるに至つていないから、申立人ら申立のように関係戸籍の記載を寅之助と申立人ミヨとの間に養親子関係が存在することをも包含するような記載へと訂正することおよびこれに伴い申立人正司、同ミヨ夫婦につき新戸籍を編製しその記載をすることなどは許されず、ひいてはまた、養子縁組追完届出に基づく戸籍記載の抹消申立は、その前提を欠くのみならずそもそも同戸籍記載のうち、申立人ヒデと申立人ミヨ(ないし申立人正司)との間の養親子関係設定に関する部分は必ずしも無効とすることができないことさきに述べたところからこれを肯定し得ないではないので、これまた許されないものである。

よつて、申立人らの本件戸籍訂正許可の申立は、理由がないからこれを却下することとして主文のとおり審判する。

(家事審判官 小酒礼)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例